昭和ガラスが生まれるまでの物語– かつて、生活の中にあたりまえにあった型板ガラス。今では姿を消しつつあるそのガラスに、新たな魅力をもう一度甦らせる –

職人の想い

想いを込めて、日常の中にガラスを

「特別ではなかった」幼い日のガラス

祖父の代から続く家業として、家のそばにはいつもガラスがあり、幼い頃から身近に触れていたものの、若い頃の私はその魅力に気づくことはありませんでした。本当の魅力に気づいたのはステンドグラスの工芸に出会ってから。家にあったたくさんのガラスの中に、「昭和ガラス」もありました。「昭和ガラスを何かに使いたい!」という気持ちだけが漠然とありました。

再び惹かれた、ガラスの奥深さ

家業が厳しい時期、デザイン性のあるものを作りたいという観点からステンドグラスの工芸を学び始めました。
すると、ガラスという素材の中に、これまで見えていなかった美しさを感じるようになったのです。
光を通すことで現れる透明感、繊細な模様、手を加えることで生まれる表情。ガラスはただの素材ではなく、無限の可能性を秘めた“表現の世界”だと気づかされました。

「昭和ガラス」との出会い

先代が残してくれていた「昭和ガラス」と新たな視点で向き合うと、違った気持ちにさせてくれました。昭和の時代に多く使われていた建築用型板ガラス。今ではほとんど作られておらず、取り壊される建物とともに失われつつある存在です。
けれど、その一枚一枚には、他にはない模様や色合い、厚みがあり、まるで記憶を閉じ込めたような温もりがありました。

“壊す”ではなく、“受け継ぐ”という選択

ガラスをただ処分するのではなく、もう一度人の暮らしの中で輝かせたい。そう考えて、2002年から昭和ガラスを器や照明へとアップサイクルする取り組みを始めました。
加工の手間はかかりますが、一つとして同じものがない個性と出会うたびに、「手づくりの原点に立ち返る」ような気持ちになります。

ガラスとともに生きる日々

今では、私の暮らしはガラスなしでは語れません。
そして願わくば、このガラスを通して、誰かの生活の中にも、そっと温かい光がともれば嬉しい。「懐かしい」「かわいい」「きれい」、さまざまな想いを抱いてほしい。
そんな想いを胸に、今日もまた、一枚のガラスと向き合っています。

昭和ガラスの歴史

昭和の暮らしに寄り添ったガラスたち

高度経済成長期に生まれた美しい実用品

昭和30〜40年代、日本の住宅や商業施設の窓や扉には、「型板ガラス」と呼ばれる模様入りのガラスが多く使われていました。そのガラスは工業製品でありながら、驚くほど多彩な表情を持ち、当時の国内メーカーは70種類もの模様を生み出していたといわれています。
光をやわらかく透過しつつ、外からの視線はやさしく遮る。その機能性とデザイン性を兼ね備えた型板ガラスは、まさに“暮らしの中のアート”でした。

懐かしさと新しさが同居する模様

よく見ると、ひとつひとつの模様には植物や水紋、幾何学模様など、時代の空気が映し出されています。
当時の家庭や学校、病院や商店街など、ありふれた日常の風景の中に静かに溶け込んでいたそれらのガラスは、今見るとどこか懐かしく、それでいて新鮮な魅力を放っています。
大量生産の中にも職人の美意識が宿った、そんな時代ならではのものづくりの精神が垣間見えるのです。

姿を消しつつある“昭和の記憶”

しかしながら、現代の建築ニーズの変化や少品種多量生産の方針で廃盤になったことにより、こうした型板ガラスは今ではほとんど製造されていません。建て替えや解体とともに、誰にも気づかれずに壊され、廃棄されていくものも少なくありません。
私たちは、そうした“姿を消しゆくガラス”にもう一度光を当て、再びよみがえらせる道を選びました。

「昭和ガラス」という名に込めたもの

かつて当たり前のように人々の暮らしの中にあったガラスを、ただの懐古ではなく、次の時代へと受け継がれる“価値ある素材”として見つめ直したい。
そんな想いから、「昭和ガラス」と名づけ、2002年から器や照明といった新たな形へとアップサイクルする取り組みを始めました。そこに刻まれた時代の記憶ごと、新たな日常へとつなげていく。
それが、私たち旭屋ガラス店の使命だと感じています。

私たちのこだわり

細部に宿る、職人の眼差し

“美しく、魅力的で、かわいらしい”ものを

私たちが目指しているのは、ただ再利用された“古いもの”ではなく、手に取った人の心に残る“美しいもの”をつくること。
それは、きれいに整っているだけではありません。どこか懐かしくて、温かくて、少し愛おしい。
そんな「かわいらしさ」を大切にしています。

細部に宿る品とやさしさ

たとえば、カットされたガラスの角にほんの少し丸みをもたせたり、模様の流れが美しく見えるように位置を調整したり。
手にしたときのなめらかな手触りや、光を受けたときの陰影の出方――そうした“細部の心地よさ”を大切に、仕上げまで一つひとつ丁寧に向き合っています。
機械的に仕上げるのではなく、職人の手と目で、“作品”としての完成度を高めています。

模様の奥にある、時間の重なり

昭和ガラスには、一枚一枚異なる模様と表情があります。
微妙な凹凸、マットな質感、小さな気泡。そうした“時間の痕跡”をそのまま活かすことも、私たちのこだわりのひとつです。
つい見入ってしまうような奥行きや、光を受けて揺らぐ影。古いガラスの持つ美しさを、そのまま新しい形にとどめたいと思っています。

一点ものだからこその愛着

すべての作品は、世界にひとつだけの一点もの。
同じ型番の皿でも、模様の入り方や厚み、光の透け方が微妙に異なります。
だからこそ、その“あなただけの一枚”が暮らしにそっとなじみ、使うたびに愛着が深まっていくような存在になればと願っています。

昭和ガラスが器になるまで − 4つの工程

スクロールできます

1. カット 無駄なく、美しく

再生するガラスの形を決めたら、模様のバランスを見ながら丁寧にカットします。
目指すのは、ただ形を整えるのではなく、模様が一番きれいに映える配置。
ひとつの大きなガラス板から、無駄なく、美しく。そこにも職人の感覚が光ります。

2. 研磨 手にしたときのやさしさを

切断面には鋭利な部分が残るため、ひとつひとつの角を丸く削り、指に触れてもやさしい手触りに整えます。
同時に、ガラス表面の曇りや汚れも丹念に取り除き、光を受けて最も美しく見える状態へと磨き上げていきます。

3. 洗浄 眠っていた輝きを取り戻す

長い年月、建具の一部として風景に溶け込んでいた昭和ガラス。
その表面についた汚れや埃を、ひとつひとつ丁寧に洗い落としていきます。すると、素材本来の透明感と輝きが、静かに姿を現します。

4. 加熱成形 丸みを帯びたやわらかなかたちに

型にガラスをのせ、窯の中でゆっくりと加熱します。高温の熱によって自然にガラスがたわみ、やわらかな曲線を描いて器のかたちへ。
手を加えすぎず、素材が自らの重みで整っていくその様子は、まるでガラス自身の“意志”を見ているかのようです。

お問い合わせはこちら

オーダーメイドのご依頼や、商品、工房に対する質問等、お気軽にお問い合わせください。